日本臨床腫瘍学会学術集会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本対がん協会合同シンポジウム)

2017.7.27

がん教育の本格始動について議論
神戸市での日本臨床腫瘍学会学術集会

 文部科学省が今年度から小・中・高校でがん教育の全国展開を始めたことを受け、神戸市で7月末に開催された日本臨床腫瘍学会学術集会で、「学校における『がん教育』~本格始動の年における現状と課題」をテーマにしたシンポジウムが開かれた。日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、日本癌学会、日本対がん協会の合同シンポジウム。文部科学省の北原加奈子・学校保健対策専門官や若尾文彦・国立がん研究センターがん対策情報センター長、本多昭彦・日本対がん協会がん教育担当マネジャー、林和彦・東京女子医大教授、相羽惠介・日本癌治療学会社会連携・PAL委員会委員長がシンポジストとなり、本格始動したがん教育の現状と課題について議論を交わした。

がん教育 2020年度以降全面実施へ
 シンポジウムではまず文部科学省の北原専門官が、昨年末に改正されたがん対策基本法でがん教育が法律で位置付けられ、3月には2021年度から実施される中学の新学習指導要領でがんについて取り扱うことが示されたことなどを紹介。小学校では20年度から、中学は21年度から、高校では22年度から全面実施される方針も示した。それに向けて、この春に小、中高生向けの教育プログラムや自由に加工できるスライド教材を作製、公開していることも説明し、これらを活用することで順次全国の小中高で授業が展開されていく見込みを示した。
 しかし、がん教育を効果的に実施するための外部講師の確保が困難であることや、教員のがんに関する知識が不十分である現状を指摘。今年度の事業として教員や外部講師の研修会の実施に取り組んでいくことを説明した。

がん診療連携拠点病院
外部講師派遣の担い手への期待

 続いて若尾文彦・国立がん研究センターがん対策情報センター長は、全国に434あるがん診療連携拠点病院のがん教育における役割について発表した。
 がん診療連携拠点病院の指定要件に「緩和ケアやがん教育をはじめとするがんに関する普及啓発に努めること」と示されていることを指摘。そのうえで、昨年10月に出された拠点病院の現況報告によると、2015年度にがん教育で医療従事者を派遣した拠点病院が約4割あったことを示した。
 そのうちの約半数が年1回の派遣だ ったが、栃木県立がんセンターのように県の委託を受けて年に60回派遣していたところもあった。若尾センター長は、がん診療拠点病院が二次医療圏ごとに指定されており、地域への情報提供がミッションの一つとなっている特性を説明。外部講師の派遣について拠点病院が「がん教育の担い手の最も有力な候補である」と指摘した。
 がん教育が全面実施となった場合、医療従事者の外部講師派遣を困難視する声も出ているが、若尾センター長は、拠点病院の数と学校数との単純計算で、1拠点病院あたり中学は25校、高校は13校あると推定。拠点病院の整備指針でがん教育の位置づけをもっと積極的にして、派遣について補助金が出る仕組みを整備するなどすれば実現可能な状況にあると訴えた。
 また、本多昭彦・日本対がん協会がん教育担当マネジャーは、2011年度から協会が続けているがん教育の出張授業での講師派遣の協力の概要や、文部科学省が公表しているがん教育で教えるべき9項目をクイズ形式で楽しく学べるアニメ教材「よくわかるがんの授業」など、提供している教材を紹介するなど、活動実績を報告した。その後、林和彦・東京女子医大教授が、これまで各地の小中高で実施してきたがん教育の出張授業の内容についてビデオで紹介、その効果などを説明した。

都道府県にがん教育の窓口を
 最後に日本癌治療学会のがん教育担当委員会の委員長である相羽恵介・戸田中央総合病院腫瘍内科部長が、外部講師の担い手として全国に約1万6千人いる「がん治療認定医」を挙げた。がん治療全般がわかる総合医で、がん診療連携拠点病院にも在籍することから、がん教育への関与に期待を寄せた。
 まとめのディスカッションでも外部講師をいかに確保するかについて議論になった。林東京女子医大教授は「、がんの専門医だけに外部講師を期待するのは苦しい」として、東京都ではがん教育の協議会を設置し、この中で学校医を外部講師として登録するシステム作りを検討していることを紹介した。
「学校医が一番学校のことをわかっている」として、がんの専門医は学校医に対するがん教育の研修会などで協力することを提案した。
 また、若尾センター長は「都道府県単位でがん教育の窓口を作ってもらうのが第一。そこから学会など様々なところがつながっていかないと進まない」と、がん教育にかかわる各機関のネットワークの構築を訴えた。