全国に設置されている地域統括相談支援センター
訪問調査報告
考察
平成23年度(2011年度)に都道府県がん対策推進事業の拡充(がん総合相談事業)の一環として始められた地域統括相談支援センターの設置は、平成25年度時点で全国9カ所となっている。今回の訪問ヒアリング調査を実施した9カ所の設置経緯や背景は、「地域統括相談支援センター」の位置づけでの活動となっているものの、設置の前身が、平成23年度以前にさかのぼるものや、事業が紹介された後に県のがん対策推進計画や条例に基づき設置されて活動がはじまったものなど、その設立経緯や背景は各県の事情が反映し、大きく異なっていた。
地域に即したさまざまな活動展開
活動範囲や内容については各県で大きく異なり、平成23年度当初に厚生労働省が示した都道府県地域統括相談支援センターに想定された活動の全体をイメージした包括的な活動が行われていたのは、2カ所(富山県、三重県)にとどまり、その他は、一部の活動を担うものとなっていた。その県や地域での課題や力を入れたいところ、また委託先の組織や団体の特性によっても異なり、異なる展開の中でのそれぞれの工夫や地域の中での特性や強みを生かしたものとなっていた。
たとえば、宮城県では、宮城県対がん協会内に設置された地域統括相談支援センターが、同事業所内で行われているがん検診事業ですでに培われているネットワークを生かした広報活動を実施したり、富山県のように市内の社会福祉協議会内に設置された地域統括相談支援センターでは、市民が立ち寄りやすい立地を生かした相談窓口の設置や設置前の行われた県内のがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターのヒアリングを通して、がん相談支援センターが困難を抱えている広報活動などのとりまとめ役を行うといった活動も行われていた。また奈良県では、がん診療連携拠点病院の設置されていない相談対応空白地域のがん相談の充実を目的として、その地区の保健所で、県内のがん診療連携拠点病院の相談員らが定期的にがん相談やサロンを開催するなど、限られた予算の中で、その地域に即した活動展開が行われていた。
地域の事情に合わせた活動展開しやすい支援
その地域の地理的な背景や人口、その地域で活用できる資源(拠点病院数やその他の支援施設、サポート源、人的資源など)は大きく異なる。また1/2補助の事業の中では、当然、都道府県による財政等の影響を大きく受ける。そうした中で、各地域の地域統括相談支援センターが、地域の背景によりさまざまな形で設立され、それを発展させてきていることは、まだ設置されていない地域にとっても非常に参考になるものと考えられる。また9つの地域統括相談支援センターの設立や発展経緯から、より効果的に各地で地域統括相談支援センターを機能させるためには、決まった姿でなく、県の事情に合わせて発展させやすい形で活動できるような事業形態や支援が求められているのではないかと考えられた。
地域統括相談支援センター間の情報共有の必要性とさらなる活性化への期待
他方、県の中だけで発展させていくことで、見えない(見えにくくなってしまう)ものもあると考えられた。たとえば、ほぼすべての地域統括相談支援センターの関係者は、他県での取組みに関心をもっていた。県の事情に合わせて発展させるということは、新たな視点での工夫が求められる。すでに実績を積んできている各地域統括相談支援センターで行っている活動や事業の発展経緯や活動内容が共有できる場が必要であると考えられる。それにより、既存の地域統括相談支援センターの活性化がさらにはかられるものと考えられる。
地域全体でのがん相談の充実と充実に向けた役割や機能の変化
地域統括相談支援センターが行う活動として、いくつかの地域では、がん診療連携拠点病院だけでは担えない機能、担いにくい機能の充実といった視点での地域統括相談支援センターの役割が指摘されていた。たとえば、がん診療連携拠点病院内ではなく、地域の中に置かれることの意味やそれによりできる活動の範囲の違いとして、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターよりも、地域全体に対して行う活動がしやすく、働きかけやすくなること、がん診療連携拠点病院間やがん診療連携拠点病院の活動からは漏れやすくなるがん診療連携拠点病院間の活動のマネジメントやまとめ役の機能を担いやすいなどがあげられていた。またこれらの活動は、各地のがん対策事業の活性化やがん相談支援センターの活動の充実に伴い、平成23年度当初と比べて地域の中で充実すべき課題が変化し、地域統括相談支援センターが担うべき活動の範囲も変化してきていることがうかがえた。そうした意味では、当然ながら、地域統括相談支援センターのみの活動の充実だけではなく、各県内そして全国のがん相談支援体制の充実といった視点から、他のさまざまな活動との兼ね合いを含めての調整機能や全体を見渡した活動のあり方がさらに重要となってきているといえる。
利用者が安心して利用できる窓口であるための押さえるべきポイントの整理
各地で異なった形で発展してきている地域統括相談支援センターではあるが、利用者が安心して利用できる窓口であるかという視点は、本質的に不可欠なポイントとしてあげられる。地域統括相談支援センターに限った話ではないが、相談を受けるというセンシティブな内容を取り扱う体制があるかどうか、個人情報の取り扱いや、その場で対応しきれない場合や緊急時の相談の取扱い、相談を受ける相談員の資質や教育・研修体制、相談員を支える体制があるかどうかは、相談を受ける体制の前提として不可欠である。特に、がん診療連携拠点病院内ではなく、地域に置かれた窓口である場合には、一からその体制をつくらなくてはならないこともあるであろう。このような前提とすべき最低限の要件は、県の予算や事業の委託先の条件によって左右されてはならず、それにより利用者の不安が大きくなるといったことは、あってはならいないことである。
いくつかの地域統括相談支援センターからは、相談員の教育や研修を受ける場がないことが指摘されていた。がん診療連携拠点病院のがん相談支援センター相談員は、がん診療連携拠点病院の整備指針により、国立がん研究センターの行う研修を受けることとなっているが、現在、地域統括相談支援センターの相談員にはそのような縛りはない。またがん相談支援センターが置かれるがん診療連携拠点病院は、厚生労働省から指定されるために、多くの診療上の要件や条件を満たしている病院であり、設置基準とされる2名の相談員で成り立ちうるのは(必ずしも充分な人数ではないとの指摘もあるが)、がん診療連携拠点病院のその他の支援体制や相談のつなぎ先などの資源をすでにもつからとも言える。こうした-少なくとも利用者が安心して利用できる-相談体制をがん診療連携拠点病院の外でつくるには、どのような要件を満たす必要があるのか、相談を受ける体制として不可欠なポイントとその整備体制の必要性を明確にして、かつ、それらをわかりやすく市民に公開していくことも必要である。そして今後設置しようとする地域で参考にできるようにすることが必要であると考えられる。
平成23年~25年度設置
各地の地域統括相談支援センター・主な内容